プログラム
シンポジウム 1
シンポジウム 1
「IEEE NSS-MIC-RTSDに見る医用放射線イメージング研究の世界最新動向」
8月29日(金) 14:40-16:10
座長
尾川 浩一(法政大学理工学部 応用情報工学科)
山谷 泰賀(量子科学技術研究開発機構 量子医科学研究所)
SY1-1「IEEE NSS-MIC-RTSD2025紹介」
高橋 浩之(東京大学大学院工学系研究科 総合研究機構)
抄録:
IEEE NIS/MIC/RTSD (IEEE Nuclear Science Symposium, Medical Imaging Conference, Room Temperature DetectorConference)は,毎年開催され,世界各国から最新の発表が行われる,世界最大の放射線計測国際会議であり,本年は11月1日から8日までパシフィコ横浜にて日本初開催の予定である.これまでに,既に1400を超える発表の申し込みがあり,最新の情報が交換される貴重な機会である.本来は,2021年に本会議を横浜で開催する予定で,ノーベル賞受賞者の梶田隆章先生にも基調講演をお願いしていたが,新型コロナウィルスの蔓延により,バーチャル開催とせざるを得ず,4年後の今回に延期となった.本会の日本招致については,学術振興会の産学連携委員会や応用物理学会等を中心として,10年以上前から活動を行ってきた結果であり,国内の関連研究者にとっても大変良い機会となることが期待される.本講演においては,今回の会議の概要を示すとともに,最近のトピックスのいくつかを紹介する.
SY1-2「放射線検出器の最新動向と医用応用」
片岡 淳(早稲田大学 理工学術院)
抄録:
放射線計測は宇宙・素粒子・原子核実験の歴史とともに進化し,新しいデバイスと測定技術の革新をもたらした.たとえば微弱な光を捉える光電子増倍管(PMT)は半導体光センサーSiPMに置き換わり,低コスト,高性能,コンパクトな装置が実現されている.また,半導体を用いたピクセル検出器は,いまや高エネルギー加速器実験の必須アイテムである.これらの技術は直ちに医療にも応用され,従来のモノクロCTを脱却した多色CTシステム,また,数十キロ電子ボルトからメガ電子ボルトを一度に捉える広帯域X線ガンマ線カメラなど,診断のみならず治療イメージング装置としても応用が期待されている.本講演では装置開発の歴史をふりかえりつつ,医用応用がされ始めている新規技術について紹介する.とくに,フォトン・カウンティングCTシステム,コンプトンカメラ,粒子線オンラインモニタの開発状況について紹介したい.
SY1-3「最先端PET研究紹介」
田島 英朗(量子科学技術研究開発機構)
抄録:
PET開発に関する最先端の研究成果は,国際学会IEEE NSS-MIC-RTSDで毎年多く報告されている.近年では,DOI (Depth of Interaction) とTOF (Time of Flight) を両立した高分解能PET装置の開発が進み,脳専用装置を含む多様な応用が注目されている.また,特定用途に特化するためにリング形状にとらわれない検出器配置を提案するなど,新しいコンセプトに基づくPET装置のシミュレーション研究も活発である.さらに,近年注目されているポジトロニウム寿命イメージングは,低酸素状態など腫瘍や組織特性に関する新たな情報を提供する可能性があると期待されている.加えて,PET/MRIや体動補正を含む画像補正法,Total-body PETのデータ解析手法の研究も高度化が進んでいる.本講演では,これらの最新動向及び今後の展望について紹介する.
SY1-4「AI応用研究紹介」
大手 希望(浜松ホトニクス株式会社 中央研究所)
抄録:
IEEE NSS MIC RTSDでは医用放射線イメージングへの多くのAI応用研究が行われています.その応用の幅は広く,画像再構成から検出器信号処理,データ補正まで様々です.その中でも近年,拡散モデルを用いた画像再構成の研究が盛んになっています.拡散モデルは,画像に雑音を加えることによって劣化させていく拡散過程と雑音から画像を徐々に復元していく逆拡散過程を考え,逆拡散過程における雑音除去を深層ニューラルネットワークを用いて学習することによって,雑音から画像を生成すること(サンプリング)を可能とします.逆拡散過程の各ステップに画像を観測データに近づける処理を差しはさむことにより拡散モデルによる画像再構成を可能とします.さらに次のトピックとして,深層学習による陽電子放射断層撮影装置(PET)の検出器信号処理があげられます.PETでは消滅γ線対の飛行時間の差(TOF)を計測することで,同時計数時間分解能(CTR)に応じた信号対雑音比の改善を得ることができます.そこで深層学習を用いたTOF推定により,CTRを改善することが試みられています.通常は点線源を何カ所かで計測しTOF推定の学習を行いますが,予測が訓練データに含まれる線源位置に偏る問題を生じます.これを避けるため従来のTOF推定法と深層学習を組み合わせたバイアスを生じにくいTOF推定法が提案されています.このように医用放射線イメージングへのAI応用研究では従来の画像再構成法や信号処理法の学理と機械学習を融合することにより,医用放射線イメージングの限界を押し上げることが試みられています.